星屑の事件簿シリーズ
棒組み
星屑の事件簿Ⅰ「棒組み」は、宮城県気仙沼市をモチーフにした架空の町「鼎が浦市」を舞台として、そこで探偵舎を設立したサナとマサの活躍を描いた探偵物語です。棒組みとは相棒と同じ意味、サナとマサが組んで駕籠かきとなって担ぎ棒を握る、この両人、果たして上手にうまくいくのでしょうか。作品に登場する人物、取り分け主役級のキャラクターは、少しだけ陰のある人物のほうが魅力的です。その点、この物語の主人公サナはうってつけ。ハチャメチャな処もありますが、情が厚く芯がしっかりした面も描かれています。
第一話は神奈川県の二宮から列車で移動してきたサナが、鼎が浦駅に到着する場面から始まります。文中ではシャーロック好きのサナが、鼎が浦で探偵を始める顛末が語られます。また鼎が浦探偵舎で行動を共にすることになる「やさぐれのマサ」も、サナの良き棒組みになるべく登場します。
第二話では行方不明になった飼い猫カラを探す依頼が探偵舎に舞い込みます。市井の小さな事件、仮に迷い猫を探し当てたとしてもその報酬は微々たるもの。でもサナは依頼人の事情を知ると全力を出すタイプ。
第三話はブラック工場と呼ばれている水産加工工場で働いていた若者が自死し、彼の祖父から彼がなぜ死んだのか、その原因を探る依頼が来ます。
第四話では宮城県警の刑事、北村京介が登場します。彼がたまたま乗車していたローカル線(大船渡線)、その列車で通学する高校生カップルが起こしたチョイ悪事件。駅の間が2キロしか離れていない区間を、わざわざ自転車を漕いで、並行して走る列車を追いかける男子高校生がいました。一見無謀と思える出来事、でも彼と彼女には秘めたる計画を実行するかっこうの隠れ蓑だったのです。
そして第五話は小学校時代に仙台から鼎が浦に転校した初恋の女子の行方を探す依頼、最後の第六話はクラシックカーが登場するお話です。マニア垂涎の日本の名車が準主役です。
2020年登場の星屑の事件簿シリーズ、他のシリーズと同様に末永くご愛顧いただければ幸いです。
2016年(平成28年)12月 気仙沼市舘山在住 木曽永介
眠り姫
本編の主人公である北村京介は北村三兄弟のど真ん中。大らかな性格で長男の風格がある大介、やんちゃで霊界コンサルタントの異名を持つ三男の永介、そしてクールな性格の次男京介は警察庁採用のエリート警部です。しかし京介は世間様で考えるようなエリートではありません。その違いを一言で云えば、弱い者やどこか世間の常識から外れた人たちに対する絶対的な優しさでしょうか。こんな京介は私にとって、とても貴重なキャラクターですが、過去の作品では脇役的に登場する場面が多く、いつか京介を主人公とする作品を書きたいと思っていました。それがひょんなことから実現する運びとなりました。それは私に突然襲いかかってきた病魔です。私は2017年の9月から6週間ほど化膿性脊髄炎で仙台市の西多賀病院に入院しました。ほぼ寝たきりの生活の中で、看護師の目を盗み、この作品をスマホの無料アプリを使って書き上げました。星屑の事件簿Ⅱ「眠り姫」は、宮城県気仙沼市をモチーフにした架空の町「鼎が浦市」を舞台として、そこでおきる3つの事件から構成されています。そしてそれぞれが独立したエピソードに見えて、実は密接に繋がっています。
第一話の「瑠璃色の空」は行方不明になった船員の悲哀物語、京介が泊まった旅館「浜見屋」の女将から長期宿泊の船員が愛犬のポコと共に、昨日の夕方から行方不明になったと相談を受ける。
第2話の「眠り姫」はご神託を授かる役目を持つ巫女が登場する怪事件、早朝離島の大島へ向かった京介が、湾内で漂流するボートを発見する。そのボートには美しい女性が薬物を摂取した影響で深く眠り込んでいた。一見すると自殺未遂のように見えたが、京介は殺人未遂事件と断定する。
そして最後の「ミッション」は離島の大島で起こる未曾有の大事件。以上の事件は京介が「鼎が浦」に滞在したほんの3日間に起こる。
病の中から生まれた本編は探偵小説の範疇に入る作品ですが、ミステリー、ファンタジー、サスペンスの3要素が織り込まれています。化膿性脊髄炎は命に関わるような重大な病気、回復後の私は生まれ変わったような気持ち、果たしてそんな気持ちが本作品に現れているかどうか、読者の暖かいご支援をお願い申し上げます。
2017年(平成29年)12月 気仙沼市舘山 木曽永介
神無月
前作の「眠り姫」に引き続き、星屑の事件簿Ⅲ「神無月」を上梓いたしました。舞台は前作と同じ気仙沼市をモチーフとした鼎が浦市。
本編では探偵サナとその相方のマサが、宮城県警の北村京介と再びタッグを組みます。対峙する相手は国際的な犯罪グループ「ランバルディ」、さらに仙台で骨董屋を経営している熊沢明美も登場します。
探偵サナの人物像は星屑の事件簿Ⅰ「棒組み」で深く描かれていますが、本編では熊沢明美がこのサナと京介を巡って衝突しそうになります。
また物語を引き立てる小道具として、大磯に住む老夫婦が運転する往年の名車ダイハツ・コンパーノ・スパイダー、サナが所有しマサが運転するダットサン・サニートラック、そして骨董屋の熊沢明美がこよなく愛するシトロエン・ディアーヌが登場し、それぞれの名車が物語では重要な役割を果たします。私の個人的な趣味でこの3台を登場させていますが、それぞれに深い思い出があります。
気仙沼市の内湾で暮らしていたころ、まだ小学生の私は通学路でいつもダイハツ・コンパーノに出会うのです。当時は車庫証明など不要で、路上にいつでも車を駐車しても良い時代でした。実家は魚屋だったので乗用車は無くて、トラックしかありません。将来大人になったらこのコンパーノに乗ってみたいと夢見たものです。
初期型のサニーはスリランカの知人が所有していた車、ボロボロのサニーは床が抜けそうでした。彼の母親が日本人で、その彼女が日本からの嫁入り道具として日本から個人輸入したそうです。
そしてシトロエン・ディアーヌは23歳から2年間駐在していたテヘランで普通に見かける車、ノックダウン生産していた車でイランでの名前はジアン、この車の個性はトイ・カーの別名で表せると思います。
私が書く「星屑の事件簿シリーズ」では、できるだけ血なまぐさいエピソードを入れないようにしています。小心者の作家にご容赦を
2019年(平成31年)3月 気仙沼市舘山在住 木曽永介
桔梗星
気仙沼湾に浮かぶ大島で起きた大事件(既刊、星屑の事件簿Ⅱ「眠り姫」かねふと文庫)から1年後、北村京介に新しい事件が起こります。今度の事件の舞台は杜の都、仙台そしてスペインのバルセロナへとつながります。
骨董屋デンデンコロリコの店主の明美は、店のアルバイトをしている女子大生の北村環と入江恵夜の二人からイギリス旅行へ同行するように迫られます。明美にとって初めての海外旅行、それが京介の登場によってスペインのバルセロナへも行くはめとなります。
そこには骨董屋の地所を所有する早坂貴彦が絡んでおり、現在はバルセロナに住んでいる彼が突然に来日して、デンデンコロリコを丸ごと5億円で買い戻したいと明美に迫ります。そして彼が持参したボストンバックに入った現金の1億円を手付金として明美に預け、風のようにまたバルセロナへ戻ってしまいます。
彼がなぜ元の地所を買い戻したいのか、その謎が深まりますが、そこには17世紀に伊達政宗の命により、サン・フアン・バウティスタ号で牡鹿半島の月ノ浦を出帆した慶長遣欧使節団が絡んでいることを知ります。
本書のタイトル「桔梗星」は陰陽師、安倍晴明の印「五芒星」の別名、その形が桔梗の花に似ていることから付けられています。物語ではこの桔梗星のほかに、六芒星のダビデの星も重要な役割を果たします。
私自身は本書を歴史ロマンと名付けても良い作品と思っています。謎解きは五芒星と六芒星のメダルに刻まれているはずの刻印、その刻印が無いために、二つのメダルは歴史的な価値が無い単なるメダルになってしまいます。ロマンとミステリー、本書の両輪と云えるかもしれません。
2018年(平成30年)7月 気仙沼市舘山在住 木曽永介
守り人
昨年から続くこのコロナ禍の中で星屑の事件簿Ⅴ「守り人」がようやく出来上がった。物語の主人公はまだ21歳の女探偵サナ、美人だがすこし影がある。一方このシリーズの常連である北村京介は物語の後半ですこしだけ登場するだけ、ほぼサナとマサのコンビが全編で活躍する。
今回の事件の舞台は宮城県北東部の港町鼎が浦(気仙沼)、いつもは鼎が浦を代表する内湾を主な舞台とするが、今回は鹿折地区や本吉町津谷、それに上田中地区を物語の中心に据えている。
現実の世界では、わたしがここに住み始めてから5年が経ち、あの東日本大震災から今年の3月で丸10年となる。主人公のサナがこのまま鼎が浦に住み続けていたら、大震災のときは32歳で、今年は42歳、果たしてどんなサナに変貌していることか、もしかしたらブラウン大学へ復学して、そのままアメリカで住み続けているかもしれない。いずれにしても興味深いキャラクターだ。
この星屑の事件簿シリーズをこのまま続けると、どうしてもこの大震災を避けて通るわけにはいかない。事情が許せるのであれば、このままを書き続けたいものだ。しかしその野望の達成には、わたしの年齢との闘いが必要だ。3年前に化膿性脊椎炎を患って、西多賀病院に5週間も入院した。入院中も大変だったが、本当の闘いは退院後のリハビリにあったように思う。
わたしが書く本は基本的にロマンとミステリー、今回の作品はどちらかと云うとミステリーに偏っている。コミカルな話もいくつか散りばめたつもりだが、その芯はやっぱりミステリー。
読者の皆様にお楽しみいただければ幸いです。
2021年(令和3年)2月 気仙沼市舘山在住 木曽永介